ひと

絶妙な響きを再現 真空管アンプの第一人者◇館山市 佐久間 駿さん

ちば民報 2013.2.10

青江三奈がささやく

もはや秋、友・平岡と聴く バド・パルエルのビ・バップ。僕はなぞらえる 愛することと生きることに」と、書籍「DJ」の「序詞」に書いた方が今回ご紹介する佐久間駿さん(69歳)である。

佐久間 駿さんの写真

佐久間さんは真空管アンプを使った回路の設計者として、世界中に名を知られた方である。今は館山市北条の海岸に近い一角でレストラン「コンコルド」を経営されている。1月下旬のある日、予約をしてお店を訪問した。約束した時間よりかなり早く店に着いたわたしは、おそるおそるドアを押して入る。「いらっしゃい」。迎えて下さった眼光と風貌は哲学者のようだ。

わたしはオーディオ装置の音を聴かせていただくとき、必ず自分の好きなCDを持参する。「そんなくだらない歌謡曲のCDを持って来やぁがって、帰ってくれ」と言われはしないかと、おそるおそる3枚のCDを差し出す。青江美奈の「伊勢佐木町ブルース」、ヤーノッシュ・シュタルケルの「J・S・無伴奏チェロソナタ」、そしてオスカー・ピーターソンの「We get requests」である。新内の岡本文弥さんが生前に書かれたエッセイで、「女性歌手では八代亜紀と青江美奈が一番だ」と書いていらしたが、わたしも彼女たちの『なみだ恋』と『伊勢佐木町ブルース』が最高だと思っている。

ジャズを心の糧に

佐久間駿さんは、ジャズ評論家の平岡正明氏とのFM東京での対談集で、やはり青江美奈の『夢灯り』を絶賛しているので安心した。CDを差し出すと気軽に「ああいいよ」とさっそく聴かせてくださった。暖かみのある真空管アンプの音は耳元で青江美奈がささやくように聞こえて来た。

佐久間さんはかつて港区の麻布十番で医師をなさっていたご両親と住んでいた。しかしぜんそくが激しくなって東京を逃れ、富浦に疎開することに。戦後地元の方々に請われて、医師の父上はそこに住むことになる。一方駿少年はラジオで唯一ポピュラーソングが流れて来る、FEN放送を密かに楽しむようになっていた。そこで聴いたジャズが心の糧となって成長する。そして都内のレストランでコックとしての修行を重ねて今日に至る。アンプの設計もプロだが、佐久間さんはハンバーグを作らせたら右に出るものはいない。かつてテレビの料理番組に出演したこともあるくらいだ。

コンコルドが開店まもない頃、当時千葉県職労安房支部の役員だった小松光一さん(現法政大学キャリアデザイン学部講師)もコンコルドに入り浸りだったという。先の対談集で「だから社会を変革するイデオロギーに共鳴した感受性の鋭い学生さんたちが、ジャズやクラシックでなくてよ、やはり日本の歌謡曲を愛したってのは、これはやっぱりすごいと思わない?」と書いているが、コンコルドは、そのような社会変革を求めた人たちのたまり場になっていたのだろう。

光っている真空管がアイマック304T

さて真空管の話に戻ろう。昭和30年代のオーディオ再生装置は真空管がメインだった。その後トランジスターが開発され、装置はだんだん小さくなり、現在ではiPodやウォークマンの時代で、耳の奥の中耳でシャリシャリするだけだ。音楽を持ち歩くという点では優れているが、生の音とはかけ離れていることに気づかない人が増えてしまった。

世界中に通じる

真空管とは簡単に言えば信号の増幅装置の一種である。管の真空空間にあるフィラメントを電気で熱することで、信号が大きく揺れるとでも考えていただければ良いだろう。詳しくはコンコルドのホームページに回路図が載っているのでご覧いただきたい。

佐久間さんは自作のオーディオ装置を抱えて日本各地はおろか世界中、フランスやイタリアまでオーディオコンサートに出かける。イタリア会場で「お酒はぬるめの 燗(かん)がいい~」という八代亜紀の『舟歌』の一節を聞いたファンから、うめき声がもれ出たという逸話もあるくらいだ。またホームページを見た真空管マニアが、アイルランドやブエノスアイレスから片道2日かけて館山までやってくる。イギリスのマニアはコンコルドと装置を見に来て、これこそLands End(「地の果て」=クリフォード・ブラウンのアルバム「Study in Brown」の中に入っている名曲のタイトル名)だ、と叫んだという。ま、イギリスから見れば日本の館山はまさにファーイーストなのかも知れない。世界中から1日、2日かけてやってきたマニアも、直熱管のアンプからでる音を数時間聴いて満足そうに帰国する。

3時間ほどお邪魔をして最後に先のオスカー・ピーターソンのアルバムから「You look good to me」を所望した。するととっておきの真空管アイマック304Tとアンプをつないで下さった。これは第二次大戦中のミッドウェイ海戦でアメリカ軍のレーダーに使われていたものだという。1200Vのアンプが暖まるまで数分。レイ・ブラウンの弓が絶妙な響きを再現してくれた。なんという充実感。もしコンコルドのアンプで音楽をお聴きになりたいならば、店に来て1250円の特製ハンバーグを召し上がると良い。マスターの佐久間さんはあなたのお好みの音を調理してくれるに違いない。夢は「あと7年後のオープン50周年を無事に迎えること」とのことだった。

▼コンコルド:館山市北条2578 0470(22)8715
http://www10.big.or.jp/~dh/index_j.html