ひと

忘れてはならない運動◇房総自由民権資料館 佐久間 耕治さん

ちば民報 2013.5.5

佐久間さんの写真

こつこつと収集

明治維新以後、薩摩・長州による国の支配が進むなか、立憲政治の実現という政府と競合しつつ、参政権と自由および自治を主張して、憲法制定、国会開設に至る状況をつくり出した政治運動を「自由民権運動」と言う。今回ご紹介するのは、千葉県において自由民権運動がどのように広がったのかを研究されている佐久間耕治さん(1950年生まれ)である。

佐久間さんは京都大学を卒業後、千葉県で社会科高校教諭を長く務められた。在学・在職中から県内の民権運動について、こつこつと史料を踏査研究され、1992年に崙(ろん)書房から「房総の自由民権/歩きながら考え、考えながら歩き続けて」を上梓された。

在職中の研究では運動に関わって来た先人の貴重な記録なども収集することが出来た。それを一般の方々に広く紹介する方法を考えて来られたが、佐久間さんが住んでおられる鴨川市が、統廃合した保育園を民間に払い下げるのを知り、応札した。その結果、昨年6月19日に鴨川市南小町にあった元保育園を手に入れ、「房総自由民権資料館」を開設することが出来た。

3月の台風のような風雨の日、佐久間さんに記念館と先人の墓所などを案内していただいた。

展示資料。中央に鶴を描いた半纏を配し、左右に民権・自由と大書きされた旗です。下の方に長狭民衆思想研究所とかかれています。

豪農が核となり

千葉の自由民権運動というと、明治12年(1879年)全国に「国会開設懇誓協議会案」という1万枚のビラを配り、豪農の力を結集して国会開設を迫ろうとしていた、山武郡芝山町出身の桜井静(1857年~1905年)の存在を忘れられない。桜井の主張は3点あり、①全国県会懇話連合にすること。②東京に一大会を開設して国会設立の法案を議決すること。③政府に懇願して国会開設の認可を得ることであった。桜井はこの中で地方権力を変革するためには、国家権力そのものの変革が必要と考えていた。佐久間さんは一貫して桜井静の研究に専念し、卒論のテーマともなった。

埼玉の秩父事件や茨城の加波山(かばさん)事件は知られているが、千葉県にはそのような自由民権を訴える運動はなかったのではないかと思われてきた。しかし佐久間さんの研究調査で、全国7位の結社数を誇り、地租の軽減を求める署名を集め、明治政府に請願した県会議員もいたと指摘する。さらに明治14年10月に発行された「房総共立新聞」(社主桜井静)によれば、銚子市内で開かれた演説会で弁士を務めた茨城県の活動家が、県から1年間の演説停止処分を受けている。

それ以後集会条例が次々に適用されるようになり、銚子市内で開かれた演説会で 「新陳代謝の理」と題して演説した弁士が「日本も新陳代謝がうまくゆかず旧物を保守していると、国を失うことになる」などと言ったところ、会場の警官から演説会の解散を命じられている(「自由灯」明治17年8月)。 また明治24年、遊説で銚子を訪れた植木枝盛(1857年高知土佐生まれの自由民権運動の理論的指導者)は市内に宿泊し、牡蠣が「味極めて美なり」と日記に書き残している。記者は3年前出張で高知市に行ったおり、市内にある自由民権運動記念館に立ち寄ることができた。そこを見学して植木枝盛らが高知において運動ののろしをあげたことを初めて知った。植木枝盛の日記でも明治9年から23年まで、高知から千葉まで船で来て、合計20回の演説などをおこなっていることが分かっている。

佐久間さんは高校教諭として千葉市と銚子、大原の高校に勤務の傍ら、生まれ育った南房地方を中心に自由民権運動の研究を進めて来た。千葉は結社も多かったし、自由党の党員数は明治17年現在で108人を数え、全国で6番目の多さだった。さらに当時の県会議員54人のうち、約7割が集会や結社の資料に名前が出てくる。運動の中心になったのは、旧武士中心の土佐型の運動とは異なり、千葉は豪農層を核にした運動ではなかったのかと指摘する。

私財なげうって

しかし140年たった今、自由民権運動は忘れ去られようとしている。例えば、銚子の政治結社、有信社の中心人物だった岡本吉兵衛の墓は市内の寺に残っているが、家系は途絶え、無縁仏同様になっているという。「この時代ほど、いろいろな階層の人間が、自分の思想と行動に確信を持ち討論したことはなかった。運動が知られていないのは研究者の怠慢」と決意を新たにした佐久間さんは、私財をなげうって鴨川に上記の資料館を開設した。

資料館に常設展示されている資料は、原(高橋)亀太郎(鴨川市の民権派教師)関係資料、佐久間吉太郎関係資料、加藤淳造関係資料、井上幹関係資料、斉藤自治夫関係資料、板倉中関係資料、主基斉田関係資料、明治刊行物などだ。

▼開館日は:土曜・日曜・祝日(平日は予約制)開館時間は午前10時~午後4時▼鴨川市成川1―1▼JR鴨川駅東口からバス(金谷・平塚本郷行)15分、主基駅下車歩100m。▼http://www3.ocn.ne.jp/~minken/入館料500円(子ども300円)。ただし鴨川市内の学生は無料。

 

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