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食文化は損得ではない◇雨宮正子さんに聞く学校給食

ちば民報 2014.5.11

雨宮正子さん

学校給食研究家として半世紀以上、「子どもたちに安全・安心な給食」をと活動してきた雨宮正子さん(千葉県自治体問題研究所副理事長)を訪ね、学校給食の現状と問題点、課題などについて伺いました。

加工食品ばかり

雨宮さんが学校給食問題に関わるようになったきっかけは、脱脂粉乳のミルクだと言います。「昭和32年頃、小学校に通っていたうちの子が、給食のミルクがまずくてみんな飲まないというので調べてみたの。そうしたらアメリカでは豚のエサだって。なんで日本の子どもがアメリカの豚のエサを飲まされるのよって思った。脱脂粉乳の入ったドラム缶から、スパナや長靴などが出てきて、“とんでもない”と脱脂粉乳反対の全国的な母親運動に広がっていきました。鴨川市に“日本酪農発祥の地”があるというので見学に行って勉強しました。地元に優れた牛乳があるんだから、生乳に替えろと運動を始めたの」と当時の様子を話してくれました。

その後、中曽根内閣の頃から「民間活力導入」が強調され、今も一番の問題となっている給食の民間委託とセンター化が、国の通達で全国的に広がったのです。今では半数以上が民間委託され、調理員のパート職員化もすすみ、約半数が臨時職員です。

給食の民間委託は、自校方式でも、何校かまとめたセンター方式でも進められています。地方自治体のその動機はもちろん経費の削減です。委託を受けた企業は民間の会社ですから、当然儲けを追求し、まず人件費を削ります。ビラ1枚で募集された調理に慣れない人が入ってきます。できるだけ少ない人数で、時には時差出勤です。そんな態勢では、手間ひまかけた調理はできませんから、冷凍・加工食品を使うようになります。

「民間委託では、学校の栄養士さんが献立を立てても、職安法に触れるので、現場の調理員さんを指導することができないの。それで献立を委託会社のチーフに渡して、会社が食材の購入から調理まで一切おこないます。センター方式になったら大量に作りますから、各学校では加工食品を温めて出すだけということになる」と指摘します。野菜や米は国産100%使用ですが、メーンの献立は加工品ばかりといいます。

食文化研究会で今年の1月にアンケートを取ったら、「民間委託になってからまずくなった」「加工品が多く、食品添加物が心配。手作りの調理をしてもらいたい」という声が各地から寄せられました。

国産にこだわる

輸入物の問題も深刻です。「千葉市の給食ハンバーグを農民連の分析センターで分析してもらったら、すごいリン酸が検出されたの。リンは骨を溶かすことになる、“とんでもない問題だ”と、1月21日の交渉でやってきたばかりです」。資料にはアメリカ、中国、台湾、カナダ、ブラジル、オーストラリアなどの輸入国が列挙されていました。中国の殺虫剤入り餃子事件が問題になった時、千葉県は問題の餃子の使用量が全国で第2位でした。

輸入物は輸送距離が長く、作ってから消費するまでも長いので、ポストハーベスト(収穫後殺虫剤散布)とか、保存のための添加物が多く使われることになります。しかも日本では許可されていないものが使われています。当然体に良いわけがありません。とりわけ子どもの学校給食に大量に使われていると思うと恐ろしい限りです。

そもそも学校給食は、義務教育の一環としてそれぞれの学校の調理場で、栄養士さんと直営の調理員さんが共同して、手づくりで温かい食事を作り、子どもたちに提供してきました。1954年に成立した学校給食法は第1条で、「学校給食は食を通じて生きる力の原点を学ばせる場である」と明記しています。 雨宮さんが学校給食について寄稿した新聞や小冊子を開いた状態で写真にしている

「TPP(環太平洋連携協定)交渉がやられていますが、これが成立したら今まで以上に食品添加物が入った加工食品や、殺虫剤まみれの野菜などが入ってきます。対県交渉を11年間も重ねて、去年やっと猛毒マラチオンが入った外国産小麦を使った給食パンを国産・県産小麦100%に替えさせたのに、また後退してしまう」と心配します。

1974年にマクドナルドの第1号店を出した当時の社長が言ったことばは衝撃的です。「最初はソースを甘くして温めてやれば誰でも好きになる。やがてこれをどんどん激辛にしていくと、日本の子どもたちはしょう油と味噌が嫌いになる」。日本の食文化を子どもの舌から完全に奪おうとするものでした。現実に最近の多くの子どもたちの嗜好は、彼の狙い通りになっているのではないかと心配です。彼の言葉は、TPPでのアメリカの目的の一つを、今日においても象徴的に物語っていると言っていいでしょう。

「子どもの体のことを考えたら、どうしても国産でなければなりません。だって日本の食文化は世界有数でしょ。和食が世界遺産にもなったし。地産地消が一番安全・安心なのです」と強調します。

アレルギーの子どもへの対応でも、給食を食べさせないで弁当を持ってこさせるケースもあります。「アレルギー対応食は、栄養士さんが1校に1人いなければできないし、調理の民間委託ではできません」。ここでも民間委託とセンター化が大きなネックになっていると話してくれました。

近年若い人たちの間の貧困化が急速にひろまるなか、給食費の無償化の問題がクローズアップされています。「給食は教育の一環だから義務教育無償の原則から無償にすべきです。1人5千円近いから何人も子どもがいると払えない人が出ます。県下のいくつかの地域で、給食費を払えない子に食べさせないということがあります」と教育の場にあるまじき出来事に怒りを表しました。

日本食への信頼

最後は給食を良くする運動の課題です。最近、各地の母親運動でも給食分科会がなくなってしまったことを憂慮しています。

「子育て中の母親たちがもっと運動の中心にならなければいけないんだけれど、お母さんたちも忙しくて冷凍・加工食品で食事を作る生活に慣れてしまって、それが当たり前になって要求が出てきにくい」と心配します。さすがに今は給食材料から、「スパナ」は出て来ないけれど、民間委託とセンター化、さらに本質的には食文化全体が後退する中で、新たな深刻な危機が進んでいるというのです。

毎日食べる給食が「損か得か、儲かるか否か」の市場論理に支配されてはなりません。食の専門家だけでなく、みんなが今の実態と本来のありかたを学ぶなかでこそ変えられるといつも訴えています。

雨宮さんの夫は被曝者でしたが、一昨年5月に87歳で亡くなりました。「白血病にさせないために、国産の安全な食材で作った日本食を毎日食べさせて、被曝後67年元気に生きてくれました。ガンにも白血病にもさせない食生活が大事」と言う彼女の体験が、日本の食文化への信頼と、それを子どもたちに給食を通じて伝えていきたいという強い思いがあると感じました。

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