ちば民報レポート

保健室の子どもたち 5 ふとんの隙間から

養護教諭サークル◇中学校 湯ばぁば

  ちば民報 2013.12.15

ぽつりぽつりと、夕べの出来事をしゃべりだす。「夕べもお父さんとお母さんはけんかをした。お母さんがかわいそう」。青白くて、五年生にしては小柄な健一は、お母さんが大好き。そのお母さんが泣いていたという。

そのとき、健一はどうしていたの? 健一のおどおどした姿を想像し心配になった。「けんかの声を聞きたくないから、2階の部屋でふとんをかぶっていた。でも聞こえてくるんだよ」。

そうなんだ。子どもはいやな状況を見たくないし、いやな声や音は聞きたくないから、ふとんをかぶって聞かないようにしている。しかし、ふとんの隙間から事実をみていたのだった。

最近出会った3年生の春男は、9月から教室に行けなくなった。保健室で私の尻の後ろをついて歩く。保健指導の資料をつくりながら、たわいもないおしゃべりをもちかけた。春男は、吐き出すように話してくれた。「心配なことは、胃がんを患った父ちゃんが、タバコをすっている。酒を飲んでいる。酒を飲んで暴れている。仕事に行っているのかわからない。寝てばっかりいる。俺んちは金がないんだ」

春男が心配なことは、いま話したことだね。わかった。よくわかった。父ちゃんにも母ちゃんにも、春男の気持ちをわかってもらうように話をするからね。実に小さな体で、でっかい心配を背負っている。

母は涙をためて、「この子が生まれてまだ日が浅いときに、父親が酔っ払って踏み潰されそうで、抱いて逃げ回っていた。離婚しようと考えたこともあった。私が夫のことを大切な人と思っていないから、子どもも不安に思っているのですね」と母はいう。いっぱい話していかれた。

保健室登校は、子どもにとって不安なことがあり、気持ちが自分で解消できないときに始まるのではないかと思う。

4年生の真理の母が話しにきた。真理が学校に行きたくないことをお父さんはどう思っているの?と私が聞いたとたん、母は激しく泣き出した。夫は不倫をしているという。そうなんだ。お母さんの不安が真里に出ているんだね。

こんな子どもや親と出会ったときに、いつも以前一緒に働いた、用務員のよねちゃんを思いだす。東京大空襲のあった1945年3月10日。よねちゃんは、3才。焼夷弾が馬小屋の馬のお尻に落ちたと。馬は大きな涙を流してあばれたと。よねちゃんは恐ろしかったけれど、ふとんの隙間からその様をみていたと。

子どもは、いやなことはふとんの隙間から、「いやだよ」としっかりした気持ちをもって見ている。子どもの気持ちを受け止め、不安を受けとってあげる大人が必要なのだと思う。

<ページトップへ>