風物

そろばんに新しい価値(白井市 そろばん博物館)

(ちば民報 2013.1.13)

博物館の中には様々なそろばんが展示してある

白井市に、そろばんをテーマにした博物館ができたというので、訪れました。北総線白井駅から木下街道を通り、国道16号をわたって最初の信号の先(右側)に「白井そろばん博物館」がありました。駐車場の端には、薪を背負った石造りの二宮尊徳像が本の代わりにそろばんを持って置かれていました。屋根を見上げると、七福神像がそれぞれそろばんを抱えて鎮座しているではありませんか。

まだ木の香りのする(2011年5月開館)真新しい和風造りの博物館の玄関を開けると、チェンソーで彫刻した梟像(フクロウ像)が足でそろばんを押さえています。裏庭には、チェンソーで彫刻したそろばんを抱えている熊像も。カービングアートの傑作です。そろばん尽くしで愉快な博物館です。

案内してくださったのは、石戸芳子さん(61歳)。訪れると、先客の案内の最中でした。先客は白井市の人で、鎌ヶ谷市の知人に「訪ねてみろ」と教えられて来たとのこと。まだまだ、市内の住民に広く知らされるに至っていないようでしたが、芳子さんと笑いながら話をしているところから、「そろばん博物館」を歓迎している様子が窺えました。

1階には、清朝時代の「五珠2つ、一珠5つ」の中国そろばんや、一つの桁に珠が10個並ぶロシアそろばんなど、珍しいそろばんがずらりと展示されてました。奥には、江戸時代の帳場も設けてありました。2階には、江戸から明治にかけて作られた産地別のそろばんも展示。これらはこの数年に収集したのだそうです。

そろばんの歴史

硯箱と一体になったそろばん

芳子さんは、中国そろばんが何故「五珠2つ、一珠5つ」なのかの疑問に答えてくれました。当時の中国が「16進法」だったから、とのこと。それが460有余年前(室町時代末)に日本に伝わったのです。日本は「10進法」が中心でしたが、明治の中ごろまで「五珠2つ、一珠5つ」をそのまま使っていました。幕末に既に「一珠は4つが良い」と主張する学者が現れましたが、本格的に「五珠1つ、一珠4つ」のそろばんが普及したのは昭和13年(1938)の小学校令の改訂があってからです。

この時、3桁区切りを「定位点」とすることも決められ、日本式そろばんはシンプルな形へと収斂されていきます。そのため、計算するときに考える部分が多くなりましたが、速く計算することや、イメージ計算ができるようになり、これが、珠算式暗算へと発展していったのです。

この博物館を建設したのは、芳子さんの夫・謙一さん(64歳)。当館長で全国珠算連盟の理事長でもあります。石戸謙一さんは、大学の学費をそろばん塾をやりながら賄った人です。大学卒業後は、「そろばん塾」の経営者の道を選びました。企業としての、「そろばん塾」を目指したのです。

暗算世界一も

しかしこの業界は、電卓の出現、学校教育からのそろばんの疎外、少子化等のことから長期衰退期に入っていて、既存の塾の人々が諦めきっていた時代でした。それなのに石戸さんは、「だからこそ生き残れば一気に抜け出て新時代を築けるはず」と考えました。

そろばん業界はとても保守的な業界だったので、それまで「実務的な技術」としてしかそろばんのアピールをしていませんでした。そこを石戸さんは、他の業種の考え方を取り込み、そろばん教育に、判断力や集中力、記憶力やイメージ能力を鍛える「右脳教育」など、新しい価値をアピールする独自路線で挑みました。それが、親御さんたちの共感を得るようになったのです。ちなみに、2012年度「第5回暗算ワールドカップ」(ドイツ・ギーセン)の総合優勝者は、石戸珠算学園の教師である小笠原尚良さん(22歳)です。日本の珠算式暗算が世界を制したのでした。

こうして、他のそろばん塾が衰退するなか、石戸さんが設立した「株式会社イシド・石戸珠算学園」は、現在直営教室27、グループ教室100を超える規模に拡大していったのです。そこからは暗算世界一となった小笠原さんをはじめ、日本一を獲得する優秀な人材を何人も輩出させています。

60歳を過ぎて、石戸さんは会社の第一線を若手にバトンタッチしました。現在は開館したそろばん博物館を拠点に、会社と業界の振興はもとより、寂れてしまった故郷・白井の旧市街の活性化を、経営者の観点から進めているのでした。

活性化をすすめる企画の1つに、「そろばん道祖神」を木下街道の各地に設置するというのがありました。これまで7体を設置しました。1体が10万~15万円かかりますが、毎年3体ずつの予定で、20年間で60体の設置を予定しています。博物館主催の「そろばんウォーク」では、この道祖神とそろばん探しにプレゼントも用意しました。近隣の商店と提携して、「そろばんドラ焼き」「そろばんカステラ」「そろばん饅頭」「そろばんラーメン」なども作り、博物館でも売っています。そろばんウォーク(参加者400人)で人気が高かったのは「そろばんラーメン」(提供・一芯)で、ピーク時には店外に20名も並んだとのことです。

珍しい「そろばんグッズ」が盛りだくさんな「白井そろばん博物館」。一度のぞいてみてはいかがでしょうか。

▼白井そろばん博物館 白井市復1459―12
047(492)8890

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