風物

軽便鉄道をSLが走る◇成田ゆめ牧場「まきば線」

ちば民報 2014.4.6

ダージリンと同じ

ディーゼルで牽引する列車が観光客を乗せて走ってる

「カサンドラ・クロス」(ソフィア・ロレン主演)と、「離愁」(ローミー・シュナイダーが主演する映画でフランス語の原題が「Le train」)は列車が出てくる映画でとても好きな作品である。前者は細菌に汚染された列車が深夜、転轍機を切り替えられ、本当はストックホルム行きの筈がカサンドラ・クロスへと行き先を変えられてしまう。この夜景の場面の美しさは何とも言えない。後者はナチスの空爆を避けながら燃料や水を補給し走る列車のなかで、妻子がありながら知りあった女ロミーに惹かれて行く話。

記者は2年前、インドのダージリンでトイトレインに乗った。インドのニューデリーに着いてから現地ダージリンまで2日もかかった。ところがさいきん千葉でも同じ軌道のSLに乗れる、という事が分かった。レールの軌間幅は610(mm)ゲージである。これはレールを敷設するとき、人間が担いで持ち歩くことができる幅なのだ。そこは、JR成田線の滑川駅近く、「成田ゆめ牧場」の中に敷設されている「まきば線」だ。

「まきば線」を運営しているのは羅須地人(らすちじん)鉄道協会で、ここを拠点に軽便鉄道の動態保存などをおこなっている鉄道ファンのグループである。「羅須地人」とは、宮沢賢治が現在の 岩手県花巻市に設立した私塾のことで、会の名前はこれにちなんでいる。取材に訪れた日に説明をして下さったのは代表の角田幸広さん(58歳)だった。「まきば線」は1993年から整備が始まったがすべて会員の手による。記者もその頃に「ゆめ牧場」を取材で訪れたことがあるが、広場には一面ひまわりが植えられていた。SLはその周りを1周する全長450mの線路である。取材に訪れた日は、SLの運行日ではなく、ディーゼルで牽引する列車が観光客を乗せて走っていた。

みんな手作り

代表の角田幸広さん。整備工場の中で後ろにSL機関車がある。

羅須地人鉄道協会が創設されたのは1973年だ。当時は軽便鉄道の専用線を持っていた新潟県糸魚川の化学原料工場で、古い小型SLを走らせながら保存する活動をしていた。ところが工場は82年に閉鎖され、次に走る場所を探して、「ゆめ牧場」に移転してきた。角田さんが、近くの「ゆめ牧場」の広場に目をつけて牧場の秋葉社長に直談判し、丘の上の約1万平方メートルを借りることができた。

記者はSL本体もさることながら、レールをどうやって敷設するかに一番興味がある。最近では、鉄道敷設の専門家も入会したとのことだ。協会では当時、3年がかりで線路を敷き、鉄橋やホームも自分たちで造った。枕木やレールなどは鉄道会社から古いものを譲ってもらった。機関庫には、敷設につかう工具などかなり専門的なものが並んでいるが、廃業する鉄工所などから貰ってきたので、買ったものはほとんどないということだ。

5台あるSLのうち、まきば線の主力として使っている「3号機」と「6号機」は元々大阪で制作されたもので、メンバーが台湾に撮影旅行したとき、昭和10年代に基隆(キールン)の炭鉱で使っていたものを発見して買い入れた。

普通の人たちが

機関庫には昭和10年代に活躍していた蒸気機関車が

角田さんは記者に、撮影しやすいようにと、わざわざ機関庫に入っているSLをディーゼル機関車を使って引っ張りだして下さった。二両目に不思議な形をしたものがある。角田さんが、新宿の某デパートからイベント用に制作を依頼されたSLだという。エレベーターに乗せられるようにと小型で、記者が「まるで宮崎駿の世界ですね?」というと、「宮崎駿監督の『ハウルの動く城』の中では、このSLのタービンを動かす音が収録されて使用されたのです」というではないか。

その日には偶然JRの若い職員の方お2人も見学に訪れて、初めて見るSLに驚嘆の声を上げていた。記者はお願いして、一度やってみたかった転轍機の操作をさせて頂いたが、意外と力が必要だった。

百年前を復元

線路の補修や延伸など力仕事などはいまも続いている。月2回の活動日の土日には、作業場に泊まり込みで作業を続ける人もいるという。約20人のメンバーは会社員など普通の人たちで、特別な資格をもっている訳ではない。しかし機関車のボイラーを作るときなどは、溶接の資格が必要になるので、各自が試験に挑戦して安全なものを作るように心がけている。作業が終わった後は、会議室で夜になると時々居酒屋になる「罐猫軒」で一杯やるのが何よりの楽しみ。100年前に作られた木造の客車の復元も着々と進行していた。明かりは電気を使わず、あくまでも昔の姿を取り戻すという。

羅須地人鉄道協会には台湾、インドなど海外のSLを取材に行って、自費で写真集などを作成した方もいる。また近年はキューバにも、保存の技術協力をしようと行ってきたということだった。

「まきば線」では、SLを始め客車やラッセル車など50両を保有している。5月3~5日の連休中と翌週にはSLを運行するので、わざわざダージリンまで行かなくても軽便鉄道に乗車することができる。

◆SLの運行などを知りたい方は羅須地人鉄道協会まきば線のサイトへ

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