ちば民報レポート

日本がどうなろうと…アベノミクス徹底検証◇二宮厚美さん講演会

ちば民報 2013.6.16

「贅沢な勉強会ふなばし」というちょっと変わった名前の勉強会があります。会員には弁護士、地方議員、会計士、学校の先生、医療関係者など様々な方がいて、希望する人は誰でも参加OKという会です。この会が5月11日、神戸大学名誉教授の二宮厚美さんを招いて、「グローバル化の中の日本資本主義リストラ戦略VS対抗戦略」と題する講座を開催しました。グローバル化をキーワードに「アベノミクスの徹底検証」をされると聞いて、記者も参加しました。要旨をお伝えします。

講演会場の様子、机に座って聞き入る人たちが沢山いる

憲法の秩序が

「私の最大の関心事は、来たる7月の参院選。もし昨年末の衆院選のような結果が再来すると、衆参合わせて改憲勢力が8割以上になり、改憲勢力にとっては千載一遇のチャンスということになる」と話を切り出しました。二宮先生は、安倍現政権と日本維新、みんなの党の「改憲型新自由主義」連合がどういう方向に進むのかが問題の焦点だと言います。

新自由主義とは、あらゆる資本主義的でないものを破壊していく、むき出しの資本主義です。その上でいちばん厄介なのは、日本国憲法の秩序です。人権などクソ食らえというのが資本主義の原理ですから、生存権、教育権、労働権など企業にとっては邪魔で仕方がありません。改憲(壊憲)と新自由主義とが結びつくのは当然の帰結でしょう。

「改憲型新自由主義」の国家改造戦略の起点(出発点)はグローバル化であり、その最大の焦点は税金問題です。グローバル化の中では、企業も富裕層も安い税金の国に逃げてしまうから、税金を取ることができない。逃げられないところから取るしかない。それは消費税しかないから、これを基幹税にするというわけです。

これまでは基幹税というと所得税と資産税でした。累進課税・応能負担という考え方、すなわち豊かな人からは高く、貧しい人からは低くというのが原則でした。消費税とは商品を買うたびにかかる税金です。所得の少ない人は生活費にほとんど消えますから、所得のほとんどに税金がかかります。高所得者は使わない多額の預金に税金がかからない仕組みです。累進性がありません。消費税が基幹税になると国民大衆から集めて国民大衆に回す、水平型所得再配分になります。グローバル化の中で税金の捉え方が180度転換してしまいました。

大企業の利益のみ

高度経済成長期からしばらくの間まで日本の企業は、ものを生産して儲け、さらに拡大再生産していました。従ってものづくりの主体である労働者も大事にしていました。ある意味で健全だったと言えるでしょう。ところが今日、グローバル化の中で多国籍企業化した大企業は、世界を舞台にしてひたすら資本の蓄積を追求する、新自由主義的思考の企業に変貌してしまいました。つまり国民経済がどうなろうと、日本の労働者の生活がどうなろうと関係ない。彼らにとって最大の関心事は、無限に広がる世界市場でどう勝ち抜き儲けるかということです。企業の国際競争力が全てを決定するというわけです。90年代半ばの日本的経営の見直し時期から、日本の財界はイデオロギーの大転換をはかり、それが露骨に表に出てきたのが最近のことです。真の意味の愛国心はかけらもありません。アベノミクスと言われるデフレ対策は、こうした流れの中に立っています。

1997年からの15年間で、平均的労働者の月あたり所得は約5万円落ちています。日本経済全体で10数兆円消費が落ち込み、これが今日のデフレ不況の本質です。果たしてアベノミクスの3本の矢は国民の所得と消費の底上げにつながっているのでしょうか。

3本の矢の行く末

第1の矢は金融緩和政策です。日銀がバンバンお金をばらまけば企業の設備投資や個人の住宅ローンなどに回るはずだ、というのが量的金融緩和政策の狙いです。しかし不景気だから借りない。お金は銀行にとどまって世間に出回りません。全くの的外れです。そこで日銀が直接株式市場とか不動産信託市場にお金を流し、「異次元の新しい手を打った」と、やってはいけないバブル引き起こしに手をつけました。その結果円安と株高が起こり、一部の資産家と輸出大企業だけが潤い、庶民は恩恵がないばかりか輸入食品などの値上がりで苦しんでいます。放たれた矢は、的まで届かず、狂ったようにバブルの方向に向かっているのです。

第2の矢は、福祉は生活保護の抑制や年金の削減で抑えておきながら、補正予算と今年度本予算で10兆円の公共事業の大盤振る舞いへと放ちました。ゼネコンに注文が行きセメントや鉄も売れるわけですから、不況対策としてゼロではありませんが、肝心の国民の消費が伸びない限り的の中心部に届きません。二宮先生は「私だったら福祉のバラマキをやる。デフレ不況は消費の不振が原因なのだから、消費が伸びる方向にやればいい」と言います。

第3の矢は、「日本を企業が世界でいちばん活動しやすい国にする」というものです。これがアベノミクスの成長戦略の基本ですが、露骨な新自由主義戦略の宣言にほかなりません。

要するに日本を企業天国・労働者地獄にすることです。いま職務限定型社員という、仕事がなくなったら自動的に首を切れる新しい正社員モデルを法制化しようとしています。また、企業の活動が規制されている医療や保育や教育といった領域を企業に明け渡し、それらを営利市場に引き込もうとしています。

これではますます格差・貧困社会は進んでしまうし、競争力を強めた大企業は一層国内市場に目を向けず、世界に出て行くという方向に向かうでしょう。第三の矢は最初から的外れです。

最後に二宮先生は、日本維新の橋下氏など、改憲勢力がなぜ若者に受け入れられるのかにふれます。昔は若者は貧しいながらも雇用は安定し、将来は結婚して子どもを育てるという展望を描けたのです。ところが今は雇用の破壊、非正規雇用という、質が違った貧困があって、将来の生活設計を描くことができない。

たしかに派遣を禁止あるいは規制するとか、非正規労働から正規労働に転換するという運動はあります。しかし多くの若者たちは、分断され自己責任をおしつけられる中で、その運動に将来への展望につながる道を見い出せないのです。こうした若者たちの状況を見据えた運動をどう作るかが今日の大きな課題だと思います。

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