ちば民報レポート

保健室の子どもたち25 黙って聞くことで

◇養護教諭サークル 中学校 湯ばあば

ちば民報 2015.8.23

ある中学校勤務のときに出会った子どもたち。
男の子の髪は茶髪、制服の中にTシャツを着て、ズボンは腰パンで保健室にやってくる。女の子は、セーラー服の胸ポケットにコンドームを入れて、注意をする生徒指導主任につばをかける。

私がその中学校に着任したとき、不登校であった実玖(仮名)が、ふとしたことから毎日保健室登校してくるようになり、ふいをつくような言葉が次々に出て来た。実玖の気が済むまでだまって聞くことに専念した。

「私ね、援交(援助交際)しているんだあ。困ったことに、同じ日にダブルで約束してしまった。しょうがないから、後輩の峰子を替え玉にした」
「えっ、援交しているって!何で?」
「ブランドのバッグが欲しいから」

またある日は、「いま高校生と付き合ってるんだ。ちょっとした公園があってベンチでセックスするんだけれど、後ろが植え込み。前は広場。通る人は、広場を横切って行くんだよ。そして、ふっと振り向いて見て行くんだよ。刺激があるよね」

もちろん「いけない」ことは実玖は分かりきっている。じっと根気よく聞くと、たいていは、自分がどうしたらいいかのヒントが隠されていることが多い。

まっとうに生きたいという心があるからこそ、予期せぬ事態に対処しようと、コンドームをいつも持っている。

「援交、伺で?」と私が聞きただすことも実玖にとっては「想定内」だ。「…刺激があるよね」という言葉にも、「キモチイイけど、本当は愛しあうことって、それだけじゃいけないよね」という意味合いもありそうな気がする。そんな深層の心にどこまで深く向き合ってくれるのか、苦しい胸の内を受け止めてくれるのか、実玖から常に試されている気がした。

ある日、実玖は言った。「このごろ母親としゃべるようになったんだ。お父さんは、まだどこにいったのか、連絡はないよ」と。実玖の悲しみと寂しさのおおもとがこのあたりにあることがわかる。

いつも何でも話せる家族。父親と母親がそろって笑顔がたえない家族。そして心から実玖を理解してくれる彼だって欲しい。先生や友だちとも素顔の実玖として付き合えたらいいな。

思春期。表面だけの「いい子」を求めて、学校では教師が一方的に決めた規則をむりやり押し付けられる。おしきせの「道徳」で、がんじがらめにされて反発せずにはいられない。実玖は本当の生きにくさをもたらすものに対峠できず、苦しくて歪んだかたちと行動で表しているだけだ。

ふとテレビの画面に平和への思いをアピールする若いお母さんたちが映しだされた。戦争法案は絶対に廃案にしなければと、暑い中、国会周辺に集まる若者がいた。実玖もあの若者たちと同じ年頃になった。

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